猟銃 井上靖

穣介は猟銃の銃口を、縁側のソファに座りガラス戸越しに外を見ているみどりに向けた。

みどりはガラス戸に映る銃を構えた穣介に気づいたが、気づいていないフリをし、目を瞑った。

少ししてみどりが振り返ると、すっと穣介は銃口を斜め空へ向けた。

・・・

このシーンの空気感がたまらない。

なんとなく、ガラス戸に映る自分にみどりが気づいていたことに、

穣介は気づいてたんじゃないかと

なんとなく

そんな気がする。

みどりが不倫の事を知っていることに、穣介が気づいていたように。

でも、なにも言わない二人。

二人の結婚生活はずっとこのシーンのようだったのかもしれないなぁ、と。

なんとも印象に残った場面。

この「猟銃」は

不倫してたおじさん(穣介)が受け取った

嫁(みどり)・不倫相手(彩子)・不倫相手の娘(薔子)、からの3通の手紙を

全く見ず知らずの別のおじさんが読む、というなかなか稀有な状況の小説。

不倫という秘密のそばで暮らしてきた3人の心境が

手紙による一人語りでそれぞれ好き放題語られ

3通を読み終えて初めて

各場面での心模様がつながる。

そこが気持ち良かったり

切なかったり。

彩子の本心は衝撃だけど

愛ってそんなもんなのかな、と。

一途にあなただけ!とか珍しくて

実際は比較したり、環境に合わせたり、いろんな打算や諦めがあって

恋愛って成立するんですかね。

だれか恋愛マスター本当のところ教えてください。

バレたら死のう、と思うほどの秘密なんてないけど

今後もそんな重荷を背負って生きていきたくないなぁ

と思う小説でした。

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